「その昔、といってもそう遠くはない昔の話じゃが、我らの一族にロックボムという英雄がおった」
ランプの明かりのみが照らす薄暗い部屋の中、ひときわ老いたドワーフがゆっくりと口を開き始めた。
テーブルを囲んで、他に二人のドワーフが椅子に座っている。三人の顔には深い皺が年輪のように刻まれており老いてみえるが、小柄ながらも強靭な肉体を有していることは、ゆったりとした衣服を身に着けていても明らかであった。
「ロックボムは樹上世界の人間に友好的でな。のちに建国の王となるボーダーとその仲間らと共に、各地で凶悪な竜を討伐していったのじゃ。彼らの一団は、“虹の旅団”と呼ばれておった。
じゃが、最後の竜を討伐した際、ロックボムは“老いの呪い”をその身に受けてしもうた。悪いことに呪いはロックボム一人に留まらず、我らドワーフ族全員に災厄は降りかかったのじゃ」
「それゆえに他の兄弟らは、ロックボムや我ら氏族を忌むのか? 射抜くように睨み、槍のごとき言葉を投げかけるのか? 呪いは、我らが同胞に分裂や憎悪という、新たな悪疫を芽生えさせてしまったようじゃ」
皺の数よりは若さを感じる喋りのドワーフが、悲しげに言葉をこぼした。
「他の氏族のものは、ロックボムと人間らのせいで我らに呪いが降りかかったと怨んでおる。じゃが、デモニカの襲撃が激しさを増している中、過去のわだかまりに捕われておる暇はない」
話し終わると軽い溜息をつき、ドワーフの語部は豊かに蓄えた白い髭をひと撫でした。
「ゆえに、ロックボムに連なる我ら一族は決断したのじゃ」
彼らの表情を映し出すランプの灯火が、煌々と、石壁を照らし続けていた。
地上世界物語【第2回】老いの呪い(2)