「“真銀の要塞”アーヴィンが身を呈して竜の攻撃を受け止め、“紅蓮の剣戟”とも称されたボーダー王の直槍が最後の竜を貫いた瞬間、その傷から鮮血と共に、緑色の霧が噴き出した。
その霧がボーダー王の身体に届く寸前、ドワーフの英雄ロックボムが彼に体当たりをした。
人間の英雄を、身を呈して庇ったのだ。
霧を浴びたロックボムは、その場に倒れてしまった。
そして、緑の霧は四散し、ロックボムと同じ種族の者たち、すなわち世界中のドワーフに、「老いの呪い」をもたらしたのだ」
固唾を呑んで話に聞き入っていた少年が、泣きそうな顔で、初老の男に問いかけた。
「ドワーフ、死んじゃったの……?」
「ああ……残念ながら。“神の腕”とも称された至高の職人の命運は、そこで尽きた。
“真白き魂”エリスによる蘇生魔術の効果も、打ち消されてしまったのだ。
さらに、最後の竜が息絶えたことが原因なのか、巨大な扉がゆっくりと開き始めた。
そしてその口から、闇とも、光とも、亡霊とも、霧とも見分けのつかない、恐るべき死の瘴気が流れ出てきたのだ。
そのとき、獣人でもあり“風の弓使い”と呼ばれた弓の名手ダムウが、渾身の力で風の魔力を放出した。
そうして、扉の奥へ完全に瘴気を押し戻すために、そのまま扉の中へ入っていったのだ。扉を封印するよう、叫びながら。
残されたのは人間たちだけだった。
我らは、彼らの犠牲を無駄にしないためにも、扉を封印しなければならなかった。
封印する術を知っていたのは、“漆黒の魔女”ミレイだけだった。
しかし、封印の魔術を発動したとき、彼女の姿は石柱と化してしまっていた。
そう、ミレイは、自身を犠牲にして全魔力を注ぎ込み、扉を封印したのだ」
瞳を潤ませながら、悲しげな声で、少年がつぶやいた。
「みんな……死んじゃうの?」
男は微笑みながら、首を横に振った。
「いいや、彼らのおかげで、我々の世界は守られたのだよ。
そして、ミレイの封印が解ける気配はないから、安心して良い。
ミレイを石柱から元の姿へ戻し、扉を永遠に閉ざす方法は、ボーダー王がいつかきっと見出してくれるはずだ」
少年の顔には、無邪気な笑顔が戻っていた。
「おじさん、王様のこと教えてくれて、ありがとう!」
走り去る少年の姿を見送る瞳は、静かに閉じられた。失った仲間たちに祈りを捧げるように。
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