2009年10月21日 19:00 『ベルアイルタイムズ』第5号 「射し込む光と失われた勇者の証」10/21
 


 ラージャン砂漠に漂っていた瘴気が消えていった。
 それはガッシーニX世を筆頭とする討伐隊の活躍によるものだ。
 モノマキア平原を解放した父ガッシーニIX世に続く偉業を成し遂げたガッシーニX世。
 空は青く澄み渡り、デモニカがラージャン砂漠に出現することはなくなった。
 だがその吉報と共に、勇者の一族の歴史に大きな転換期が訪れようとしていた。


  ■ラージャン砂漠解放戦についてはこちら■
  http://www.belle-isle.jp/200910/post_528.html


 デモニカの長年の瘴気が篭り、濁った空を晒しているラージャン砂漠。
 その玄関口とも言えるブラストフ渓谷にほど近い北西キャンプに討伐隊は集合した。
 集合したのはカルガレオン代表、騎士『サイセン』
 ボーダー代表、職人『ショクニム』
 アリアバート代表、魔術師『セイ=メイ』
 そして幾多の戦いを潜り抜けベルアイルで生き抜く屈強なる冒険者達。

三国の代表たち 冒険者の面々
三国の代表たち 冒険者の面々

 アリアバート代表は元々貴族『ダーンシャーク』男爵であった。
 しかしこの場にはその姿はない。
 現アリアバート代表のセイ=メイとの争いの最中、デモニカの凶刃に倒れたのだ。

  ■ダーンシャーク男爵についてはこちら■
  http://www.belle-isle.jp/200909/3_929_1.html

 ダーンシャーク男爵殉職の原因とも言えるセイ=メイにショクニムが噛み付く。

 「なんでこの女がダーンシャークの後釜なんだ? 俺は認めねぇぞ」

 三国協力体制が築かれてからというもの、ショクニムは男爵とは度々意見を衝突させていた。
 そんな彼だが男爵のことは認めていたようだ。
 仲の良いケンカ友達のようなものだったのかもしれない。
 セイ=メイはそんなショクニムの非難など何処吹く風の様子。
 愛する男のために生きていくことしか考えていないようだった。

 作戦前から三国の代表者が仲違いをするという不安がよぎる中、
 勇者『ガッシーニX世』の姿が見えない。
 サイセンが語ったところによると食べすぎで遅れてくるとのこと。
 ガッシーニ一族とは思えない理由だが、それだけ母である張満福の料理が美味いということだろう。
 記者も一度ご相伴に預かりたいものだ。

 順風満帆な船出とは行かなかった今回の作戦。
 悪いことは続くようで、当初から予想外の事態の連続であった。
 討伐隊の作戦はこうだ。
 三国代表の三名をそれぞれの隊長とする遊撃隊を三隊組織する。
 それぞれが広大なラージャン砂漠を点在するキャンプを拠点としてデモニカの捜索を行い、
 デモニカ発見の後は三隊が合流して一気にデモニカの殲滅を図る作戦だ。
 しかしこの作戦は作戦当初から瓦解した。
 三隊に分け各地へ移動したところで、三隊のキャンプに同時にデモニカが急襲したのだ。
 逃げ惑う人々と勇敢にも戦う人々の悲鳴と怒号が飛び交う中、
 懸命に冒険者を鼓舞し、自らも前線でデモニカと戦う三国の代表者。
 しかし三隊に分けた戦力ではデモニカの侵攻を抑えきることは出来ずに、
 討伐隊に絶望の色が見えはじめたところに突如デモニカが消失した。

デモニカとの激闘その1 デモニカとの激闘その2

 突如訪れた静寂にほっと一息を吐く討伐隊の面々。
 そんな中、アフラーム周辺に闇の芽発見の報が訪れる。
 三隊は合流し総力戦を挑む。
 既に満身創痍の討伐隊、一旦引くのが正解だったのかもしれない。
 だが今回の作戦は三国が一致協力して行う初めての作戦。
 準備期間を考えると、もし今回の作戦が失敗に終わった場合
 再びこれだけの戦力を集めるのは至難の業。
 全ては今回で決着をつけなければならない、負けられない戦いなのだ。

 背水の陣に追い込まれた討伐隊はついにデモニカ本隊と遭遇する。
 複数確認された闇の芽から次から次へと湧き出してくるデモニカ。
 圧倒的な物量の前に、遂にはサイセンとショクニムが負傷により戦闘不能に陥った。
 志半ばにして戦線離脱を余儀なくされた二人を時空門にて安全な場所に送り届け、
 セイ=メイは残った冒険者を引き連れて勝ち目のない戦いに向かおうとしていた。

湧き出るデモニカの猛攻その1 湧き出るデモニカの猛攻その2

 勇者とはその運命を背負った者を指すのかもしれない。
 これ以上ないタイミングでガッシーニ姉弟が討伐隊に合流した。
 その時ガッシーニ一族に代々受け継がれる名剣フレイムブリンガーが一際赤く輝いた。
 全てを燃やし尽くすかのような赤く輝く刃を手に、次々とデモニカを屠っていく姉ガッシーニX世。
 的確に真言魔術による治癒や援護を行い前衛の活躍を助けた弟ビョージャック。
 その戦いはデモニカスレイヤーの一族にふさわしいものだった。
 少なくとも記者が知る限りでは過去最高の、恐ろしいほどの活躍を見せていた。
 やはりガッシーニという存在は、集団戦においてはガッシーニ個人の戦闘力以上に
 冒険者の士気向上という形で戦力となっていたように見えた。
 絶望的だった空気は一蹴され、勝利へと向かう気運が高まる討伐隊。

勝利に沸く討伐隊

 そして最後の闇の芽を消滅させた討伐隊は勝どきを上げた。
 一陣の風が吹きぬけた後、デモニカの瘴気で覆われたラージャン砂漠の空気が一新されたように感じた。
 だが勝利の余韻に浸る間もなく事件は起こる。
 デモニカスレイヤーガッシーニ一族の象徴とも言える
 名剣『フレイムブリンガー』の刀身が音を立てて砕け散ったのだ。
 そして全ての力を使い果たしたかのように空腹で倒れたガッシーニX世。
 ガッシーニX世は冒険者の治癒魔術により一命は取り留めたが、そのショックは隠せない。

 かつてこのような噂があった。
 ガッシーニ一族が常に空腹を抱えているのはフレイムブリンガーが原因ではないかと。
 確かに先代のIX世はX世にフレイムブリンガーを託してからは至って健康のようだ。
 奥方である張満福の料理のおかげかとも思われたが、
 産まれた時からその料理を食しているX世にも空腹の症状は表れている。
 そしてフレイムブリンガーが光り輝いた時、ガッシーニX世は空腹に苦しんだ。
 それを堪えて戦った結果、フレイムブリンガーは限界を超えて砕けてしまったのではないだろうか。
 全ては推測に過ぎない。
 ガッシーニ一族の空腹の原因がフレイムブリンガーだったのか、今となっては真相は闇の中だ。

フレイムブリンガーを失ったガッシーニX世

 戦場を共に駆け抜けたパートナーを失い、失意の中にあるガッシーニX世へ
 セイ=メイはかつて自らがダーンシャーク男爵から贈られた言葉を伝えた。
 「自分が生きる道は自分が決めるものだ」と。
 セイ=メイとダーンシャーク男爵の、愛に殉じる生き様に憧れを抱いていたガッシーニX世。
 自らの生きる道を決めた彼女から飛び出したのは、
 まさかの「ガッシーニをやめる」という驚きの発言だった。
 これには弟のビョージャックすら寝耳に水の話だったようで、
 開いた口がふさがらない様子だった。
 そのままの勢いで「自分の恋を探す」とラージャン砂漠を飛び出した元ガッシーニX世。
 幼い頃から戦いに明け暮れてきた彼女も年頃の女性であることは変わらない。
 縛り付けられていた何かから解放されたかのような晴れ晴れとした表情で
 彼女は女性としての幸せを求め旅立っていった。

 残されたのは歴史的勝利を忘れて驚く冒険者とビョージャック。
 そして全て分かっていたかのような満足げな表情のセイ=メイだった。

 X代まで続いた勇者の系譜はこれで途絶えてしまったのだろうか。
 ベルアイルの戦いの歴史を牽引してきた一族が、その幕を降ろしたことは衝撃的なニュースだろう。
 これまで名剣を手に戦場を駆ける勇者の姿に、ベルアイルの民は勇気付けられてきた。
 その姿をもう見ることができないと思うと寂しさすら感じる。
 だがそれでも忘れないで欲しい。
 ガッシーニX世、彼女は十分過ぎるほどの成果を我々にもたらしてくれた。
 我々人間はラージャン砂漠をデモニカの手から取り戻したのだ!

 もちろん弟のビョージャックにセイ=メイ、この戦いの指揮を執ったサイセンとショクニム、
 この瞬間を夢見ながらも志半ばにて倒れたダーンシャーク男爵の活躍を忘れてはならない。
 そして何より数多くの冒険者の協力がなければこの成功は成らなかったことだろう。

 この歴史的な戦いの後、記者は再びラージャン砂漠を訪れた。
 そこには青く澄み渡る空と、デモニカの恐怖に怯えることなく鉱石掘りをしている職人の姿があった。

澄み渡るラージャンの空その1 澄み渡るラージャンの空その2

 樹上世界ベルアイルが誕生して1300年。
 一人の英雄が去ったベルアイルの歴史はここから新たな局面に突入していく。

本紙記者マイ=シン
記事:マイ=シン


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