~第五章:二重螺旋の拱門 前編~

地上世界物語 / 老いの呪い

「その昔、といってもそう遠くはない昔の話じゃが、我らの一族にロックボムという英雄がおった」

ドワーフ ランプの明かりのみが照らす薄暗い部屋の中、ひときわ老いたドワーフがゆっくりと口を開き始めた。
テーブルを囲んで、他に二人のドワーフが椅子に座っている。三人の顔には 深い皺が年輪のように刻まれており老いてみえるが、小柄ながらも強靭な肉体を有していることは、ゆったりとした衣服を身に着けていても明らかであった。

「ロックボムは樹上世界の人間に友好的でな。のちに建国の王となるボーダーとその仲間らと共に、各地で凶悪な竜を討伐していったのじゃ。彼らの一団は、“虹の旅団”と呼ばれておった。
じゃが、最後の竜を討伐した際、ロックボムは“老いの呪い”をその身に受けてしもうた。悪いことに呪いはロックボム一人に留まらず、我らドワーフ族全員に災厄は降りかかったのじゃ」

「それゆえに他の兄弟らは、ロックボムや我ら氏族を忌むのか? 射抜くように睨み、槍のごとき言葉を投げかけるのか? 呪いは、我らが同胞に分裂や憎悪という、新たな悪疫を芽生えさせてしまったようじゃ」皺の数よりは若さを感じる喋りのドワーフが、悲しげに言葉をこぼした。

「他の氏族のものは、ロックボムと人間らのせいで我らに呪いが降りかかったと怨んでおる。じゃが、デモニカの襲撃が激しさを増している中、過去のわだかまりに捕われておる暇はない」話し終わると軽い溜息をつき、ドワーフの語部は豊かに蓄えた白い髭をひと撫でした。

「ゆえに、ロックボムに連なる我ら一族は決断したのじゃ」

彼らの表情を映し出すランプの灯火が、煌々と、石壁を照らし続けていた。

ドワーフの使者 古びた、しかし一寸のゆがみもなく垂直に切り立った石壁に映るドワーフたちの影が、大きくゆらめいた。新たに一人のドワーフが部屋に入ってきた際に、ランプの炎が傾いたためだ。

「これで、三名の“使者”が揃ったな」
ドワーフの語部は頷きながら、他の三名の顔を見回した。

「我らは決断した。樹上世界で力を蓄えつつある人間に、我らがこれまで研究を重ね、蓄えてきた知識の一部を与える。そして、デモニカ根絶のために協力させる、と。
確かに人間たちは、愚かで無能、歴史浅く、同族同士のいさかいが絶えぬ。しかし、幾度に及ぶデモニカの大襲撃を耐え忍んだ強靭さと、歴史と共に文明を発展させていく成長力には、我らとて舌を巻かざるをえん」

言い終わると、語部は、“使者”たちの顔を順番に指差しながら、さらに言葉を続けた。 「お主たちは、“使者”じゃ。この書簡を携え人間の国へ赴き、ドワーフの“使者”として各国の王に我らの言葉を伝えよ」

そうして語部は、“使者”の一人一人に、蝋で厳重に封印された書簡を手渡していった。封印にはそれぞれ、炎、大地、氷の紋章が刻まれていた。

「我らは地上世界を取り戻し、デモニカを絶滅させるために、一族で最も勇敢なお主たちが選ばれたのじゃ。英雄ロックボムと同じ血が流れる我らの誇りにかけ、必ずや任務を果たせ!」

そして、ドワーフ族の未来を託された三人の“使者”たちは固い表情で頷くと、意を決したように小部屋から退出していった。まるで、死地へ赴く兵士たちのように。