~第五章:二重螺旋の拱門 前編~

地上世界物語 / 暗黒軍師

「ウキョウ様はね」

ウキョウ 明るく柔らかな照明の光が白い土壁に反射する、ここはアリアバートの初等学校の教室だった。

大きな木製の机が並べられた教室では、数名の少年少女が椅子に座り、授業を聞いていた。
生徒たちは皆、青緑色の生地で上品に仕立てられた制服を着用している。

「よくないことをいう人もいるけれど、実は、ここアリアバート王国の発展に最も尽くした一人なの」
教育メガネを掛けた黒髪の若い女性が、黒板に文字を記しながら話を続ける。
手に持つ教科書の表紙には“アリアバートのれきし”と記されている。

「よくないことって?」
おとなしく教師の話を聞いていた少年が、聞きなれない言葉に首を傾げた。

「人には分からないように悪いことをしながら、この国を自分のものにしてしまおうとしている、なんて噂する人もいるみたいね。

でも、覚えておいて。ウキョウ様はそんな方ではないわ。」

「じゃあ、どんな人ー?」
ショートカットで青髪の少女が、片手を高く上げながら質問を発した。

「いい? これからウキョウ様のことを話すわね。ほら、手を動かしている人は止めて、よく先生の話を聞きなさい。

ウキョウ様が生まれたのは、いまから1000年以上も前のこと。この前に話した、“地上世界”でね。
そして、ウキョウ様はエルフという種族だから、永く永く生きていられるのよ。

その頃、“地上世界”には“デモニカ”という怖い怖い魔物が出るようになっていた」

「知ってるー! お父さんがこの前、アリアバートの外でやっつけた、っていってたよ!」

「ダンテ君のお父さんは強いわね! デモニカをやっつけるなんて」
教師が手を叩きながら少年の父親を称えた。

「でね、私たち人間のご先祖様と、エルフ、ドワーフ、巨人族たちは、一緒にデモニカから世界を守ろうと戦っていたの。

でも、ある時、デモニカの大軍が人々の街やお城を一斉に攻撃してきた。
皆、街から逃げ出してエルフの森へ隠れ込んだの。

それからどうすれば良いのか、人間の王様たち、エルフの長老様たち、巨人族の長たちが集まって、話し合ったのね。そこには、ウキョウ様のお父様もいたわ」

教師は黒板の前に据え置かれた椅子に腰掛け、歴史の教科書をひざに乗せて、ページをめくった。

世界樹 「話し合いの結果、魔術を使って、大陸を大きな樹で持ち上げてしまうことになったの。“世界樹のルーン”という、葡萄の形をした禁断の魔石の力を借りて」

「ブドウ、ってなーに?」
教室内で最も小柄の、赤髪でそばかすあるの可愛らしい少女が首をかしげた。
「葡萄、っていうのはね……地上世界でしか生えない果物。小さな実が沢山くっついている、甘酸っぱいフルーツよ。食べた人には、永遠の生命と平穏が訪れると言われているわ。
でもね、その“世界樹のルーン”を使うためには、魔力の高い者が、樹の根元で魔力を注ぎ続けなければならなかった。
そうして、選ばれたのが、ウキョウ様のお父様。エルフの中で、一番高い魔力を持っていたからよ」

教師は、整然と並べられた生徒の机の間をゆっくりと歩きながら、歴史の教科書をめくっていく。

「せんせー! ボクのお父さんよりすごいのー?」
ダンテの隣に座っていた双子の弟が、兄と似通った質問を発した。

「キケロ君やダンテ君のお父さんと同じくらい、すごかったのかもね。
だから、ウキョウ様も本当はものすごい力と知恵の持ち主なのかもしれない。

そうして、今、みんなが歩いているこの世界は、樹の上に持ち上げられた。
こうして安心して暮らしていられるのも、巨人族や、ドワーフ族、そしてエルフ族の協力があったからなの。

その意思を引き継いだウキョウ様は、何百年もこのアリアバートの国に仕えて、人間たちを見守ってくださっているのよ。

時には、人間たちの争いに仕方なく参加しなければならなかったこともあるけれど……それは、私たち人間の手で引き起こされたこと。
地上世界での人間や巨人、ドワーフ、そしてエルフのように、みんなで仲良く暮らしていかないとね。

さあ、だから、みんなも大きくなったら、少しでもウキョウ様の力になれるよう、お城へ行って“献上”のお手伝いをしてね」

「はーい!」
教室中の生徒全員が手を高く上げ、同時に、授業の終わりを知らせる鐘が音高く鳴り始めた。