世界樹の深部には、樹の生命線である樹脈の流れがある
根とも幹ともつかぬ大樹のよじれは、巨大な洞穴を作り出していた。
時に小道のように。
時に壮大な建物のアーチのごとく。
その一角に、静謐の空間に包まれた小さなホールが存在していた。
珪酸体や鉱物結晶が、根とも幹ともつかぬ壁面を覆い、魔力と霊力の流れに感応し白金や蒼色に輝く。樹脈には正の力が溢れ、命ある者の心地よい波動を投げかける。
生命の力に溢れた場所であった。
その一角に、数人のドワーフが調査の機材を手に、地面を探っていた。
「結晶の下には底なしの亀裂がある。樹脈の干渉はないことはすでに証明しておるゆえ、間違いはない」
メガネをかけたドワーフが小さな機器を片付けながら言った。すでに亀裂の存在を感知してから数日間、結晶の調査を進めていたが、破砕するための方法を見出せずにいたのだ。
床面に広がる楕円形の白濁とした結晶構造には、何か魔力的な流れがあるのか、毛細血管のように青い粒状の光がゆるやかに一定方向に移動していた。
「霊的な流れもあるゆえ、おいそれとはゆくまい」
魔術に精通したドワーフの賢者が口にしたのがきっかけであったかのように、突然結晶の輝きが徐々に弱まり、ついには古びた鉱石のように鉄色と化した。
「はて、何が起きたのか?」
賢者が口にすると、
「理由は周期的なことか、はたまた他の魔力ノードの影響か解らぬがこれは好機やもしれませぬぞ」
他の者たちは、アダマンタイトのツルハシや魔法的な光を放つランスのような得物で結晶を突き始め、それまでの傷ひとつつけられなかった障害は数撃で砕け散った。
穴の底は、広大な亀裂のようで、すぐ側には大樹の壁面が淵のように続いていた。
舞い落ちる結晶が、あまりにも深い闇に消えてゆくのを見て、ドワーフの間に喚起の声が上がった。
この底は地上へ通じているのではないかと思える淵の存在に、誰の心にも喜びが溢れたのだ。
それは一瞬でかき消された。地の底から聞こえる、恩讐のごとき空気の震えと、禍々しい何かが這い登り来る気配に。
かつて、美しい結晶に覆われていた穴からは瘴気が噴出し、樹脈のラインに目に見えぬ黒々とした何かが入り込み、空間全体を侵食しはじめるのを、光に喰らいつく闇の存在を誰もが感じた。
彼等はこのときは、まだ気がついていなかった。
遥か後方で、聖の力が苦痛と狂気の果てに産み落とした闇のモノが、壮麗な翼を広げ近づいていたことを。